筆界特定制度
筆界特定制度は、裁判によるまでもなく、行政において土地の筆界を適正に特定し、問題解決、筆界に関する紛争を予防し、早期に解決することを目的に平成17年の不動産登記法の一部改正(平成17年法律29号)により創設された制度です。(平成18年1月20日施行)
筆界特定の事務は、対象土地の所在地を管轄する法務局又は地方法務局にて(法124条)、法務局長又は地方法務局長が指定した筆界特定登記官が、その事務を行うこととされており(法125条)、申請を受けた筆界特定登記官は、筆界調査委員(土地家屋調査士・弁護士・司法書士)、当事者の意見を求め、事実調査等を行い、筆界を特定することとされています。
土地の所有者は、筆界特定登記官に対して、自己の土地と、これに隣接する他の土地との筆界について明らかでない場合は、隣接する土地の所有者の一方または共同で、不動産登記法の規定に従い筆界特定の申請をすることができます。
申請の際には、申請書に必要な事項を記載し,添付書類とともに対象となる土地の所在地を管轄する法務局又は地方法務局の筆界特定登記官に対して,筆界特定の申請をすることになっています。
また,手続を迅速に進めるためには,お手持ちの資料(測量図など)をできるだけ提出することが望ましいです。
申請手数料は,対象土地の価額によって決まり、たとえば,対象土地(2筆)の合計額が4,000万円の場合,申請手数料は8,000円になります。
また、申請を申請人本人が書類を作成して法務局へ申請する場合の費用は上記の8,000円のみですが、資格者代理人(土地家屋調査士、弁護士、司法書士)が代理して申請する場合には、その資格者代理人の報酬も必要となってきます。
さらに、申請手続きが進んでいきますと、現地の測量が必要となってくる場合もあり、その時には、測量費用が別途必要となってきます。
この費用は、法務局から測量実施者である土地家屋調査士などの専門家に相見積もり、入札方式などで費用算出の依頼があり、それによって公正な費用が算出されることとなります。
筆界調査委員は、法務局長又は地方法務局長から任命された非常勤の公務員で、実務上、主に土地家屋調査士が任命されている。筆界調査委員の任務は、土地の測量又は実地調査、申請人等からの事情聴取及び資料提出を求めることなどで、事実の調査を終了したときは、筆界特定登記官に意見を提出することとされている。(法142条)
筆界特定登記官は、筆界調査委員から意見が提出されたときは、その意見を踏まえ、登記記録、地図又は地図に準ずる図面及び登記簿の付属書類(地積測量図等)の内容、対象土地及び関係土地の地形、地目、面積及び形状並びに工作物、囲障又は境界標の有無その他の状況及びこれらの設置の経緯その他の事情を総合的に考慮して、対象土地の筆界特定をし、その結論及び理由の要旨を記載した筆界特定書を作成しなければならないこととされています。(法143条)
なお、筆界特定登記官が、筆界特定をしたときは、遅滞なく、筆界特定の申請人に対し、筆界特定書の写しを交付し(法144条)、筆界特定の関係書類は、対象土地の所在地を管轄する登記所において保管されることとなっています。(法145条)
筆界特定登記官のなした筆界特定の結果に基づいて、地積の更正の登記や、地図の訂正を行うことを義務付けた規定はない。
しかし、表示に関する登記については前述のごとく登記官の職権手続も可能であるが、一次的には当事者の申請によることとされているので、筆界特定結果の地図等への反映を希望するときは、筆界特定の申請人は、筆界特定登記官から交付された筆界特定書を申請書に添付して、地図の訂正や、地積の更正登記申請等必要な諸手続を行うこととなります。
筆界特定登記官が定めた筆界特定の効力は、行政処分としての効力がないことから、公定力は認められないため、筆界特定登記官が定めた筆界特定について異議のある関係者はいつでも、裁判所に対し、境界確定訴訟を提起することができることとなっています。
この場合、裁判所は、当該訴えに係る訴訟において、訴訟関係を明瞭にするため、登記官に対し、当該筆界特定に係る筆界特定手続記録の送付を嘱託することができることとされており(法147条)、筆界特定登記官の特定した筆界を受け入れず、境界確定訴訟を提起したとしても、登記官としても登記事務を取り扱う筆界特定登記官が、専門的知識をもって特定した筆界は重要な書証(証拠)となり得ることが想定され、裁判上それなりの評価がされることになると考えられます。
筆界特定がされた場合、当該筆界特定に係る筆界について民事訴訟の手続きにより筆界の確定を求める訴えに係る判決が確定したときは、その筆界特定は、当該判決と抵触する範囲においてその効力を失うこととなります。(不登法148条)
境界と訴訟
呼名が違えば当然に性質も異なってくるわけですから、裁判における手続きも異なります。
「所有権の界」を訴訟で争う場合には、「所有権界確認訴訟」を提起します。
「筆界」を訴訟で争う場合には、「境界確定訴訟」を提起することになります。
この筆界確定訴訟は非訟事件であるとされています。
非訟事件とは、実体的権利関係自体を確定するものではなく、裁判所が当事者の主張に拘束されずに行うアドバイスであって、終局的に権利関係を確定するものでないということで、下記の用件などが関ってくると考えます。
・原告において特定の境界線を主張する必要はない。
・裁判所は,当事者の主張する境界線に拘束されずに境界線を定めることができる。
・境界線を当事者の合意によって変更処分することはできない。
・境界確定の訴えにおいて主要事実はないから,自白の成立する余地はない。
・境界の申立に対する認諾は成立しない。
境界確定訴訟で、当事者の自由処分は許されておらず,その合意によって境界を定めるこもできません。
したがって,境界自体を内容とする和解・調停はできないこととなっています。
ただし,実務上,「境界の確定」としてでなく,「所有権の範囲の確認」として和解・調停を成立させることがあります。
これは、登記簿の名義人が真実所有者である場合には、問題はないのですが、登記簿の名義人と真実の所有者がことなる場合には、前者は単なる名義人でしかないので、真実の所有者を相手取ることになります。(最裁昭和59・2・16民集141号)
隣地の土地所有者が個人であればその住所地、会社であれば本店所在地となります。
例えば、問題となっている土地が名古屋市で、隣地は貸し駐車場で土地所有者が東京に住んでいる場合には、東京の裁判所に提訴する事になりますが、法は不動産の所在地の裁判所に提訴する事も認めていますから、名古屋の裁判所に訴える事も可能です。
所有権確認訴訟 | 境界確定訴訟 |
所有権の及ぶ範囲の争い | 地番と地番の境界の争い |
敗訴がありうる | 敗訴はありえない |
話し合いによる解決できる | 話し合いによる解決できない |
請求の棄却できる | 請求の棄却できない |
所有権確認訴訟 | 境界確定訴訟 |
所有権の及ぶ範囲の争い | 地番と地番の境界の争い |
判決の効力は第三者に及ばない | 判決の効力は第三者に及ぶ |
「経界確定の訴が実質は非訟事件であることは、上段で判示したとおりであるが、訴訟によらせている以上、訴訟費用の負担について民事訴訟法によつて定めるのも当然である。
その判決は,実質的にみても,当事者の主張に対比して、その請求を認容したかしないか、或はその一部を認容したかどうかということが必ず云えるものである。
従って、訴訟費用を常に必ず原告に負担させることなく、民事訴訟法に定める訴訟費用の負担の原則に従って、実質的にみて敗訴者に負担させることが憲法に違反しているとはいえない。」(東京高裁昭和39.9.15下裁民集15巻9号2184頁,判例タイムズ169号189頁)と判例が出されていますので、通常の民事訴訟と同様に敗訴者に訴訟費用が負担されることとなります。